ミュンヘン周遊 その3

ミュンヘンの有名な店にDallmayr(ダルマイヤー)がある。日本でも大きなデパートなどで見かけたことがあったが異常に高いソーセージなどが売られていた。もともとは1700年ごろにChristian Reitterという商人が営んでいた事業を後にAlois Dallmayrが引き継ぎその際に自分の名前を事業に使用したようだ。その後この会社は1870 年に売却されたがこの名前だけはブランドネームとしてそのまま使用しているとのこと。売却後に引き継いだ一人でその当時は腕利きの女性事業家である Thereseという人物が デリカテッセン(惣菜)関連の食ビジネスを展開してDallmayrは有名になる。その後にブレーメンから来たコーヒー豆関連の事業を営むKonrad Werner Willeが加わり、コーヒー関連の事業を始めたことでDallmayrのコーヒ事業一気に加速し知名度もさらに上がる。(ちなみに意外に感じるかもしれないが実はドイツは紅茶とコーヒーのヨーロッパ市場への流通経路としてかなり大きな経路を持っており関連会社も巨大である。伝統的にハンブルクなど北ドイツでは紅茶やコーヒーの輸出入が盛んである)
Dallmayrのビジネス規模の大きさやブランドの地位は同時にバイエルン地域の貴族にも多用されるきっかけにもなり、王室御用達としてもこの地域で名を知られていたようだ。また実にドイツらしい企業であり、ドイツだけではなくヨーロッパの中でもデリカテッセン事業としてみるとかなり大きな企業のようで、調べてみると色々なビジネスに手を伸ばしており、ミュンヘンにある高級総菜店のイメージだけでは想像しにくい堅実な企業としての別の顔を持つ。実際Dallmayrはコーヒー豆で有名で、ドイツ国内のどんなスーパーに入ってもコーヒー売り場の棚には 必ずと言ってよいほどこのブランドが置いてある。またドイツ以外の国でも見かける。2014年度の決算では日本円にして1000億円を超える売り上げを出しており、そのうちコーヒーと紅茶の販売だけで600億円ほどをたたき出したようだ。次にオフィス向けのコーヒー販売事業で 400億円前後の売り上げを出している。(そういえば今思い出すと私と関わりのあった大学の教授専用オフィスビルの中の各フロアにDallmayrの全自動飲料マシンがあった気がする。)その一方ミュンヘンの旗艦店で見られるような華やかなデリカテッセン事業での売り上げは50億円程度のようで、つまり本業はコーヒー(と紅茶)で成り立っているのであろう。

Dallmayr旗艦店の中。春なので桜?が飾ってある。
高級惣菜が並ぶ。日本で言うとデパ地下。
Dallmayrのソーセージ

さて、このDallmayrの旗艦店、総菜や多くの種類のコーヒー豆、チョコレート菓子などが売られているのだが実際の感想としてはどうか。高級総菜・食材店とは言うことができるが実は飛びぬけて高価というわけではない。安くはないのだがフランスなどにある高級食材店と比べるとここで買える商品は若干安価ともいえる。この旗艦店の二階にはカフェもあり、そこではやや高価格帯の選りすぐりのコーヒーなどが飲めるが、日本で言うと高級ホテルで飲むコーヒーのような価格であり、(少なくとも日本人的感覚では) 目が出るほど高いわけではない。では何よりも一番大切な「味」についてはどうか?恐らくこれがDallmayrというブランドを雄弁に語っており、正直言って非常に美味しいというものには出会わなかった。とはいっても十分楽しめたし決して不味かったわけではないことはしっかりと強調しておきたい。二階で飲んだ普段あまり飲むことのないようなコーヒー豆で淹れた一杯はなかなか美味しかったし、店内を歩き回る店員もここがドイツという事を考慮すると、とても上品かつフレンドリーでカフェの雰囲気自体を楽しめる。ただフランスやイタリアで出会うような、はっと感じさせるような食べ物や飲み物が無いのである。上級な飲食店ではあるが目新しくはないといった感じであろうか。
有名なコーヒー豆もスーパーなどを通して全国展開しているが、安くはないが高くもなく、庶民の手にも十分届く値段である。

製造業を含めた各種産業を世界に知らしめている事で有名なドイツではあるが、この国で出会う食べ物はさほど美味くないというのは私がここでわざわざ強調することではないだろう。しかしそういう国なので全体的にこの国の食産業の質はフランスやイタリアそして日本と比べると相対的に低くなってしまう。正確に言うと食品そのものの質という意味ではなく、美味い食べ物が少ないという意味であり一般ドイツ人もそれで満足しているのであり、そういった美食というものを含めた文化は明らかにフランスやイタリアと比べて劣る。

前述のDallmayrの二階にあるカフェについてだが、椅子に座ってくつろぎながら辺りを見回していたが、そこで見ることのできるドイツ人客を見るとなにか少し違和感を感じ、いったい何だろうと美味しいコーヒーを飲みながら考えてみたところ理由が分かった。何か、これらのドイツ人がその場所にいるのが場違いな感じがし、それが違和感を感じさせた原因なのだが、よくよくこれらドイツ人を観察するとその理由がわかる。彼らは所得は十分にあるのだがファッションセンスや振る舞いが全体的に田舎臭いのである。もしくは正しい表現ではないが成金主義的な雰囲気であろうか。ドイツ人は平均的にはそれほど所得は高くないが(税金でごっそり取られるため)、もちろん金持ドイツ人も十分に存在し彼らは贅沢な生活を送ることができる。特にバイエルン州は経済的にも豊かな地域である。しかしドイツ人は金があっても一番安いスーパーに行き一番安い商品を買うような人が結構いる。ドイツ人を馬鹿にした冗談とかではなく、私自身がそういうドイツ人を何人か知っているのでこれは事実である。そんな倹約根性を極めるドイツ人ではあるが、いわゆる上流階級の伝統文化というものを嫌悪しているわけではなく一定の憧れも確り持っているのだが、フランスやイタリアと比べると日常生活では実質剛健的な行動が優先され、物質的実利に結びつかないような文化的雰囲気を上手に楽しむことには慣れていない、いや、慣れていないというよりはそんなことはあまり気にしないというほうが正しいだろうか。それでも金が十分あるとおしゃれに決め込んだりしたいという気持ちが沸き上がるようで、やはり彼らも血の通った人間なのだろう。だがそれを実践しようとするとその様子がまるで成金の田舎者っぽくなってしまうのである。たとえば隣のテーブルに座った一人息子を持つ中流階級っぽい家族についてだが、その息子は12,3歳ぐらいであろうか、親に買ってもらったであろうBOSSの黒いジャケットを着ているのだがそれが異様に長い。またそのジャケットと内側に着ている服が全然合っていない。そういう着こなしをするジャケットではないことは明らかなのであるが、要するに長くて黒いトレンチコートのようなそれがかっこいいと考えているのであろう。なんか出来損ないのヴァンパイアのような風貌にも見える。映画マトリックスを観てて痺れてしまった農家の息子が頑張ってキメているいった感じだ。
もう一方のテーブルには4人家族が座っており、子供は兄妹で高校生か大学生ぐらいの年齢だろうか。明らかに裕福な家族で、母親はエルメスでショッピングを楽しんだ証拠を彼女の腰の横に置いてあるロゴ入り買い物袋を通じてカフェにいる他の客に証明している最中だ。そして家族全員が妙な形と色遣いのスニーカーを履いているのである。おそらく娘か母親が「とても履き心地がいい」といった理由で家族に勧めたのだろう。こういう風変わりなファッションセンスをハリウッドなどの芸能人や一流モデルが実践する事があるが、それはあくまで公衆への露出の多い業界に身を置く人たちのする例外的な光景であり、高級カフェにエルメスのバッグを持って入店する人たちのすることではない(と思う)。いまいちハイソな世界に浸かりきれないドイツ人が多いと感じる。

そういえばミュンヘン空港の中にもDallmayrはあった。空港かさ上げ料金なので高い割にはパッとしない感じの食べ物が並んでいたが前述したように悪いものでもないのでここで軽食を注文した。ふと気が付いたのだがなんと寿司を売っているようだ。問題はその寿司である。王室御用達の伝統をもつDallmayrが提供する寿司がどのような有様かは次の写真を見てもらったらわかると思う。どう見ても日本の安いスーパーで売れ残った寿司を、家に帰って別の皿に盛りつけ直した体裁である。マグロは縁のほうが茶色く変色しかけているし盛り付け用の下駄(木の板)は酢飯の水分を吸って染みている。私は寿司屋で少しだけ働いたことがあるのだが、ゴミ箱の底に転がっている廃棄された寿司の光景がよみがえる。
ちなみに会計の時にいたアジア人が実は日本人で私に話しかけてきた。会計に使ったクレジットカード情報からから私が今住んでいるところを得意そうに当てて私が驚いていることに満足している若干キモイ感じの彼だが、それはともかく私が目にした寿司について彼は何か感じるところがないのか、寿司という食べ物ががどう在るべきかを知る日本人としての、また高級惣菜店で働く日本人社員としての彼のプライドがないのか気になったのだが、彼の醸し出すキモイ雰囲気が嫌だったのとフライトの時間が迫っていたので早々と立ち去った次第である。

ミュンヘン空港で売られていたDallmayrの誇り高き寿司

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