アメリカ、特にニューヨークへ行くとつくづく思うことがある。一部のハイテク製品を除いて「Made in U.S.A」をほとんど見かけない事である。いや、正確に言うとアメリカ国内で製造される必要もなく、広い意味でのアメリカ企業によって企画された製品の事だ。要するに「Made in China」であってもいいわけだ。例えばとあるニューヨーク中心部の私の泊まったホテルの洗面台やトイレはドイツの高級陶磁器メーカーである「Villeroy & Boch」であった(ちなみにルクセンブルクにもこのメーカーの工場がある)。たしかにこのメーカーは高級であるがアメリカの高級ホテルがなぜわざわざヨーロッパのブランドを使うのだろうか?高級品であるならばアメリカにも何かあるんじゃないの?と思うかもしれないけど、特に日常生活用品に関して言うとほとんどない。つまり高級ホテルが部屋の調度品として高級品を使おうとしてもあまり質の良いアメリカ産の製品が無いのでヨーロッパ製(特にドイツ)か次に日本製が(ある意味仕方なく)よく使われている。
特にニューヨークは多種多様なものが金を出せば何でも手に入る。日本でもそうだが先進国の場合、自国産の商品やサービスは高品質ではあるが同時に高価格になる傾向がある。でもニューヨークの高級ホテルのような場所なら十分資金に余裕はあるはずだろうし、無理にヨーロッパブランドにこだわらなくてもいいはずであるが前述のようにアメリカ製の高級ブランド品がとにかく少ないので、逆に高級なものを購入しようとするとヨーロッパの商品などが余計に目立って市場を占領する。何とも情けない状態だ。特に私の様に普段ヨーロッパに住んでいるとアメリカに滞在中に妙な気分になってしまう事がある。
例えばアメリカの土産でも買おうと高級スーパーマーケットに入るとする。すると高級オリーブオイルやワインを始めハムやチーズ、スナック菓子や生鮮フルーツに至るまで、これらの殆どがヨーロッパから輸入されたものであり、こういうものが「高級品」として店に並ぶ。しかし私の様に普段ヨーロッパに住んでいて、またここは欧州単一市場なのでヨーロッパ各国の文化的食品や特産物が普通に近くのスーパーで手に入るのだが、こういった割と普通に手に入るものが「イタリア産」、「フランス産」としてアメリカでは高級品扱いになるのである。逆にこういった高級スーパーではアメリカ産、つまり自国のものをあまり見ることが無い。あるとすればポテトチップスやステーキ肉などだろうか。アメリカは確かに豊かな国である。ほとんどすべての必需品を自国でそろえることが出来るし先端科学技術について言うと一歩どころか10歩ほど欧州より進んでいる。しかしに高級で品質の安定した日用品となると3流とまではいかないが1.5流程度にとどまりがちだ。
アメリカにもさやえんどうスナックがあるのか~、と思っていたら・・・ 何とカルビーの文字が裏面に! 有名なkatzsのパストラミ・サンドイッチ。凄い量だが値段も結構する。あと店は活気があるが少し汚い。 パストラミはニューヨーク名物と思いきやこれも結局イスラエル系移民によるヨーロッパがルーツの料理だという。 やや高級な食料品店に並ぶオリーブを見るとイタリア産だった。見慣れてるので失礼ながら全然高級な気がしない。
特に歴史的・文化的な商品や食品になるとか彼らはヨーロッパや日本に太刀打ちできない。なんせ歴史にしてもヨーロッパと比べてもゼロの数が一つ足りない。なので一見すると豪華で先進的で、摩天楼が輝くニューヨークという大都市であっても、確かに新しいものは色々と生み出されるとはいえ伝統的なものが少ないために深みが少なく見えるのだ。なのでアメリカそしてニューヨークも、歴史という面では欧州のどの都市にもどうしても勝てない。
一方、ニューヨークの良さはこれまで無かった新しい文化の創造力にあるので、見ようによってはヨーロッパの都市とアメリカの都市では初めから違う土台に乗っているとも言えよう。しかし逆に言えばニューヨークから創造的な文化が無くなると途端につまらない、単に大きいだけの都市に成り下がるであろう。この「文化的深みの足りなさ」に対して実際のところアメリカ人は一種のコンプレックスを持っている。なので金のある人ほどアメリカ製品ではなくヨーロッパブランド、もしくは日本ブランドを欲しがるのである。なんせ金が十分にあってもそもそも自国の商品に品質以上の文化的魅力が無ければどうしようもない。アメリカ産の炭素鋼であっても切れ味抜群な包丁は作れるが、やはり金があると多くのアメリカ人は先入観で日本の高級包丁を試したがるのが良い例だ。そしてその逆の現象はまず聞かない。例えばヨーロッパや日本の金持ちがアメリカ産のブランド品を多く愛用するとかはめったに聞かない話だ。
結局そういう訳でアメリカに来た時に現地の高級品を土産に買って帰ろうとしても困ることになる。せいぜい思いつくのはジェリービーンズとか、馬鹿げた超特大サイズのポテトチップス、そして星条旗の模様が入ったネクタイとかペンとか、熱烈なアメリカ愛国者以外にはお笑い用小道具にしか見えないような土産を買って帰ることになる。
ジェリービーンズを買うのは大人でも楽しめる。 種類によっては本当の「豆」に見える。 ニューヨークは間違いなく魅力的な巨大都市である。が、すべての面で一番という訳ではない。